Bangkok Club Report


タイは好きな国の一つである。物価は安いし、人は穏やかだ。居心地が良すぎてバンコクには延べ1年以上も滞在していた。しかしぶっちゃけた話、この都市のクラブ事情はお寒い限りだ。タイの法律ではアルコ−ルを取り扱うすべての店は、深夜2時までの営業と決められていているのである。 もちろんクラブも例外ではなく、いよいよこれから盛り上がるってときに閉店してしまうケ−スが多い。 そもそもこの国には、欧米でいうクラブカルチャ−なるものが存在しないのではないかとさえ思ってしまう。 なにか、根本的なノリが違うのだ。 まともに曲なんて聴いてない人がほとんどではないか? タイのロ−カルなクラブは、まさに日本の居酒屋のノリといってもいい。(そこが面白いという人もいるが) いまだにハウスやテクノの12インチシングルすら満足に手に入らない状況では、それもしかたがないのかもしれない。 かってはこの街も外資系の大手レコ−ド会社が入っていたが、すぐに撤退してしまった。 理由はといえば、あからさまなコピ−商品が市場価格の約1/5で出回っているからである。 警察の取締も弱く、海賊版コピ−屋は半ば野放し状態に近い。これではハウスはおろか、海外から輸入される音楽マ−ケット自体が正常な形で機能しないのも無理からぬことだろう。 ゆえにロ−リングスト−ンズの公演もキャンセルになったのだ。(表向きはSARSの影響ということになっているが、実際はチケットが予想以上に売れなかったらしい)
いきなり冒頭からネガティブなことを書いてしまったが、 肩ひじ張らずに気楽にクラブに行けるという点ではバンコクは遊びやすい都市である。 料金はリ−ズナブルだし、真夜中でも思ったほど治安は悪くはない。 ビ−チリゾ−トでまったりした後、帰国する前の晩に軽く踊りにいくというのが正しい遊び方?なのかもしれない。 たとえ有名DJのパ−ティがあったとしても、過剰な期待は禁物なのだ。



Q BER    Sukhumvit Rd Soi 31, Bangkok

バンコクでファラン(タイにおける欧米人の俗称)に一番人気のクラブといったらここだろう。 だが、定期的に海外からDJが招待されるものの、そのポテンシャルを少しも発揮できないまま帰国するという悲しい事態も頻繁に発生しているという。 とにもかくにもバンコクではそこそこにお洒落なハコとして知られていおり、週末は暇を持て余した金持ちのタイ人がBMWで駆けつける。 ベトナムやバリにも支店があり、Tシャツやキャップ等のグッズも販売している。 水面下ではコカインやヘロインを扱うプッシャ−が出入りしている店としても有名で、時折警察の手入れが入り、ブロ−クダウンパレスへ直行してしまう外人旅行者が後をたたないらしい。

 

SUZY PUB   Kaosan Rd, Bangkok

世界有数の安宿街から、いつのまにかバンコクの若者の集まるお洒落スポットに変貌を遂げたカオサン。 この界隈にはザ・クラブ、LAVAなど幾つものクラブがあるが、何処もいまいちパッとしない。 しかし、何故かここSUZY PUBだけはいつもタイの若者で満員御礼なのである。 外人ツ−リストはほとんど目撃することがないという、まさにタイ人オンリ−のハコ。 週末などは満員電車並に混雑しており、入り口付近には店に入れないお客が大勢たむろしているほど。 店内はテーブルと椅子が所狭しと並べられており、踊るスぺ−スはごく僅かだが、そんなことはおかまいなくいつも異様なくらいに盛り上がっている。 基本的にエントランスチャージはなく、適当にドリンクを注文し踊っていればOK。 ウィスキーをボトルでキープし、コーラやソーダで割って、みんなでワイワイやりながら飲むというのが典型的なタイスタイル。 選曲はタイのポップダンスミュージック、レッチリ、ロービー・ウイリアムスから、デスチャまで何でもありのオ−ルミックス。 なんの脈絡もなくいきなりウタダヒカル(!)がプレイされたりして度肝を抜かれる。 日本や欧米人のDJスタイルに馴れた耳にはかえって新鮮に聴こえたりして、それもまた楽しい。


 

DJ STATION   Silom Soi 2, Bangkok

バンコク在住の夜遊び好きでシーロムソイ4(SIILOM SOI 4)を知らない奴はいないだろう。 ガイドブックにこそ掲載されていないが、DEEPER、ROMECLUB、など数多くのバ−やディスコがひしめきあい、バンコク屈指のクラブ密集地帯となっている。 そのシーロムソイ4の中程に位置し、ハウス好きのゲイが集まる場所として世界中に名を馳せているクラブが「DJ STETION」だ。 日本のゲイクラブに顕著な排他的な雰囲気は微塵もなく、女の子もノンケ(いわゆるゲイじゃない人)も、躊躇なく入場できるのが嬉しい。 ビルボード等の最新ヒットチャートから70年代のダンスクラシックまで、メリハリのある幅広い選曲は、人種、年齢、性別に関係なく楽しめることうけあいだ。 白人とタイ人の仲睦まじいカップルが多く、上半身裸の男性もチラホラ。 ピ−ク時にはただでさえ狭いハコが、フェロモン過剰気味の男衆で溢れかえり、身動きが出来ないほどの芋洗い状態になる。 酸欠寸前なのにもかかわらず、店内には心地いいボジティブなヴァイブが流れているのはさすが。 ブラックカルチャ−とは疎遠な筈のタイのクラブの中では、数少ない本物のソウルを感じさせてくれる希有な店だ。(ちょっと誉めすぎか!) 毎週末の午後11時から始まるニュ−ハ−フショ−も必見。 いわばパ−ティ−前の余興みたいなもんだが、サ−ビス精神に富んだエンタ−テイメントはアジアならではの開放的なム−ドが溢れている。 補足として、スリウォン通りソイ6、セブンイレブンを右折したところに「BANK STUDIO」なる穴場のゲイクラブがある。 深夜DJステ−ションがクロ−ズした後、まだまだ踊り足りないマッチョな兄貴達で盛り上がっている。警察のチェックが入らない限り朝まで営業している。要チェックだ。(笑

 

BED SUPPER CLUB   Sukhumvit Rd Soi 32, Bangkok

新しもの好きのバンコクっ子のあいだで、今最も注目を浴びているハコ。 近未来都市のコロニ−を連想させる外観からは、そこがクラブだとは誰も想像できないだろう。 宇宙船の内部のような白いホリゾンで覆われた空間は一見の価値あり。 靴を脱いでラウンジに座る斬新なスタイルで、踊るのは苦手という人もリラックスして時間を潰せる。 客層も20代後半といったところがメインで、南国らしくないフォ−マルなファッションが目立つ。 クラブというよりはバンコクのハイソサエティが集まる社交場といった趣きだ。 タイに駐在しているファランにも人気があるのも納得。 これで気持ちいいディ−プハウスがかかっていればいうことないのだが。

 

SPEED   Silom Soi 4, Bangkok

バンコク最大の歓楽街パッポン近郊にある老舗のクラブ。 タイで唯一のヒップホップのハコという触れ込みだが、実際にヒップホップをかけてる場面にでくわしたことはない。 SPEED1とSPEED2があり、SPEED2は100B、1ドリンク付き。 エントランスではバットボ−イズキッチュに決めたタイ人の兄ちゃんが、軟弱者はお断りといわんばかりに睨みをきかせている。 話してみると意外に気さくでヒップホップについて何も知らなかったりするのが、何ごともファッションから入るタイ人らしくて好感がもてる。

 

Ministry of Sound   Sukhumvit Rd Asok, Bangkok

ご存知ロンドンを本拠地に置くMOSのバンコク店。 2001年12月に鳴り物入りでオ−プンしたのだが、普段の客の入りは芳しくなく、週末や特別なイベントを除いては常に閑古鳥が鳴いている状態。 タイの平均的な若者にとって500Bという料金設定は、やはり敷居が高いのだろう。 ゆえに客層も上品で大人しく、常連のお坊ちゃまタイ人などは隅っこのほうで申し分けなさそうにチビリチビリ飲んでいたりする。 派手にガンガン踊っているのは、カオサンから赤バスで乗り付けてきたイスラエリ−軍団ぐらいだ。 2002年にはロジャ−・S、ピ−ト・トンなどの大物ゲストも招かれ、パ−ティも大盛況だったのだが、いかんせん後が続かない。 コンスタントに大物DJを招聘するには、まだまだタイのハウスマ−ケットは小さすぎるってことか。 サイトも開設されたのだが、2003年7月の時点で再び閉鎖されてしまっている始末。 しかし、今後この国でハウスが根付くかどうかの鍵は、このクラブが握っているといっても過言ではないだろう。
(2003年8月現在、Ministry of Soundは閉鎖された模様。なお、クラブは引き続き名前を変えて継続されるらしい)


 

ROUTE66   Ratchda Pisek Rd, Bangkok

地元バンコクっ子に圧倒的な人気の「RCA」で最大の集客力を誇るディスコ。 (RCAとはル−ト66を中心としたディスコの密集地帯、Royal City Avenueの略) かって暴力事件や薬物問題が多発したことによって一時的に客足が遠退いていたRCAだが、ここ数年のトランスブ−ムで完全に息を吹き返したようだ。 テイストは100%メイドインタイランドのトランス。(※) 具体的にどんな音楽かピンとこない人は、とりあえず現地に行って体験していただくより他にない。 毎晩地を這うような振動が鳴り止まぬ日はなく、1週間も通えばノイロ−ゼになること必至だ。 ボクなどは、この近所には絶対に住みたくないとさえ思ってしまう。 客層はタイのティ−ンエイジャ−がメイン。 このエリアでは日本人が珍しいのか、ごく稀に積極的な女の子が逆ナンしてくるという嬉しい事態に遭遇する。 さすがアジアのラテン民族といわれるタイ人だけあるな〜などと鼻の下を伸ばしていると、美形のオカマだったりするので注意が必要だ。





NARCISUS   Sukhunvit Rd 52 Bangkok

かってバンコクで高級ディスコといえば、イコ−ルNARCISUSという時代があった。 MOSが進出する以前まで、来泰する欧米人DJは必ずといっていいほどここでプレイしていたものだ。 安っぽいラブホテルのような外観、瀟洒な古代ギリシャ的内装が、いかにもバンコクっぽくて良い。 年に一度P・オ−クンフォ−ルドがゲストに呼ばれ、店をあげての盛大なパ−ティ−が催される。 年齢層は高く、ファッション関係者やホワイトカラーの客が多い。 タイのクラブは場所によって人種ががらりと違ってくるのが特徴だ。 ちなみに、隣はペガサスという会員制の高級コ−ルガ−ル専門店。 もちろん経営者は同じ。 いかにもお水っぽい服装で固めた従業員は、かっての日本バブル絶頂期のディスコを連想させ、仄かな哀愁すら漂わせる。

 

RETEESAMOSONG   Soi Market Kam Pangpet Rd Chatuchuk

バンコクほど多種多様な夜遊びを楽しめる都市も珍しいだろう。観光客向けから、金持ち専用、地元庶民ご用達と客層やロケ−ションによって雰囲気や予算もガラッと変わってくる。お金をかければかけるほど面白いかというと、一概にそうでもないのがこの街の奥深いところだ。チャトチャック、いわゆるウィ−クエンドマ−ケットは日本でも有名な観光名所だが、その向かいのオ−ト−コ−ストリ−トは小洒落たバ−やカフェが軒を連ねる穴場のスポットとして密かな注目を浴びている。「MoonLightCafe」、「TurnLeftNewVresion」、「YogkadokPab」等、どこも最近になってオ−プンした小奇麗な店ばかりで、バンコクの女性誌にも取り上げられたりしているようだ。日本でいったら西麻布あたりに相当するエリアなのだろう。そんななか、華僑系上流階級出身のタイ人一押しのクラブがここ「Peteesamosong」だ。まぁ、ノリそのものはバンコクのどこにでもある普通のクラブと変わらない。タイで活躍しているモデルも集まるらしく、ここへ来ることがステ−タスなのか、カクテルの値段も他店より若干高めに設定してある。なるほど、RCAあたりと比較するとセミアダルトなム−ドで、女性のファッションもかなり気合が入っているように見受けられる。客層は100%タイ人。音楽のジャンルは何がかかっているかって?それは訊かないお約束だ。(笑) 一晩中踊り明かそっか!なんてはりきっていくと間違いなくスカされる。この店も例外なく午前2時までの営業なのだ。バ−ともクラブとも判別がつかないちょっと中途半端なハコであるが、そんなところもバンコクっぽい。



(※)100%メイドインタイランドのトランスについて。
90年代前半、世界中のクラブでハードコア・テクノ旋風が吹き荒れた直後、NYブルックリン、ヨ−ロッパの一部の地方都市を中心にロッテルダムテクノなるものが流行ったことがある。 文字どうりオランダのロッテルダムから発生したテクノで、コンプで極端に歪ませた909のキック、オ−バ−200BPM (Beats Per Minute)にも及ぶ超高速ビ−ト、デスト−ションをかけまくったビキビキのアシッドト−ンなどが特徴だった。 現在でもごく少数のマニアの熱狂的な支持があり、今日では通称ガバ、あるいはデステクノと名を変えて生き残っている。 またそれらのサウンドにトランスの要素を加えたもの、オランダが発祥地ということで「ダッチトランス」とも呼ばれたりするわけだが、タイの若者の集まるディスコでは例外なくその手の音楽が大音量で垂れ流されていたりするのだ。 最近タイで大ヒットした歌謡曲も、ダッチトランスのエッセンスを巧みに取り入れたものだった。 欧米の大物DJが来ても、盛り上がるのは比較的激しい(悪くいえば下品な)トランスだったりする。 もともとタイ人は体質的に、R&Bをル−ツとするハウスよりトランスの速いビ−トのほうがしっくりくるのだろうか。 タイで生産されているタイ人によるテクノは、ほとんどこの傾向のものであると思って間違いない。